法人で所有しているアパートや一棟マンションなどの収益物件を売却するとき、「いくらで売れるか」だけを見て判断するのは十分ではありません。
法人所有の収益物件では、
- 現在の売却価格
- 土地・建物の簿価
- 借入残高
- 売却費用
- 建物部分の消費税
- 法人全体の利益・欠損金
- 売却後に法人へ残る現預金
- 売却後のB/S
- 売却資金を次にどこへ配分するか
まで分けて考える必要があります。
特に混同しやすいのが、「売却益」と「売却後に法人へ残る現金」は別物という点です。
借入元本を返済すれば現金は減りますが、その返済額がそのまま法人の売却益を減らす費用になるわけではありません。
逆に大きな売却益が出ても、借入返済・税金・売却費用を差し引けば、想像ほど現預金が増えないことがあります。
この記事では、新潟市で法人所有のアパート・収益物件を売却するときに、経営者が確認したい簿価、借入、法人税、消費税、手残り、B/S、次の投資まで整理します。
この記事の前提|賃貸事業用の固定資産として所有している不動産を想定
この記事では、法人が賃貸事業のために長期保有し、固定資産として計上しているアパート・収益物件を前提にしています。
不動産会社が販売目的で仕入れ、棚卸資産として保有している物件などは、会計・税務上の扱いが異なります。
また、法人形態、資本金、課税事業者かどうか、会計処理、グループ通算制度の有無等によっても取扱いは変わります。
具体的な税額は、必ず顧問税理士等へ確認してください。
先に結論|法人の収益物件売却は7つの数字を分けて考える
| 数字 | 何を見るものか |
|---|---|
| 成約見込価格 | 現在の市場でどの程度の価格が現実的か |
| 税務上の土地・建物簿価 | 売却による法人所得への影響を考える基礎 |
| 借入の一括返済額 | 決済時に金融機関へ返済する金額 |
| 売却時の資金支出 | 仲介手数料、登記関連費用、金融機関関連費用等 |
| 消費税 | 土地と建物で課税関係が異なる |
| 法人全体の課税所得 | 本業・他物件・欠損金等も含めて税負担を考える |
| 税引後手残り | 最終的に法人へどの程度の現預金が残るか |
「利益」と「現金」と「借入」を一つの数字で考えないことが重要です。
法人所有と個人所有では税金の仕組みが違う
個人が土地・建物を売却した場合は、所有期間によって長期譲渡所得・短期譲渡所得に区分され、原則として他の所得とは分離して税額を計算します。
法人はこの仕組みとは異なります。
法人が固定資産を売却して生じた利益・損失は、原則としてその事業年度の法人所得の計算へ反映されます。
そのため、
- 本業の利益・損失
- 他の不動産収益
- 固定資産売却損益
- その他の益金・損金
- 利用可能な繰越欠損金
などを含めて法人全体で考えます。
個人のように「5年以上持ったから約20%」と、収益物件の売却益だけに一定税率を掛けるものではありません。
参考:国税庁「法人税の税率」
まず確認するのは購入価格ではなく現在の簿価
法人所有の収益物件を売却するときは、取得時の購入価格だけではなく、現在の簿価を確認します。
特に建物は減価償却によって簿価が下がっています。
例えば取得時に、
| 土地 | 3,000万円 |
|---|---|
| 建物 | 5,000万円 |
| 合計 | 8,000万円 |
だった物件でも、減価償却が進み、現在の簿価が、
| 土地 | 3,000万円 |
|---|---|
| 建物 | 2,000万円 |
| 合計 | 5,000万円 |
となっていることがあります。
この物件を8,000万円程度で売却した場合、
「購入価格と同じだから利益はない」
とは限りません。
建物の簿価が減価償却によって下がっているため、売却による利益が生じる可能性があります。
「会計上の簿価」と「税務上の簿価」は一致しない場合がある
ここも法人売却では重要です。
会計上の固定資産台帳に記載されている帳簿価額と、法人税計算上の簿価が必ず一致するとは限りません。
例えば、
- 減価償却方法
- 税務上の償却限度額
- 資本的支出
- 過年度の会計・税務調整
などによって差が生じる場合があります。
そのため、売却前には、
- 固定資産台帳
- 法人税申告書
- 減価償却明細
を確認し、税額シミュレーションには税務上の数字を使うことが重要です。
借入残高は売却益の計算とは別
次のような物件を例にします。
| 売却価格 | 1億円 |
|---|---|
| 税務上の土地・建物簿価 | 5,500万円 |
| 売却に伴う費用 | 300万円 |
| 借入一括返済額 | 7,000万円 |
消費税や個別の税務調整等を考慮しない、説明のための単純化した例では、売却による法人所得への影響を見る数字は、
1億円 − 5,500万円 − 300万円 = 約4,200万円
です。
一方、売却直後に残る税引前キャッシュは、
1億円 − 7,000万円 − 300万円 = 約2,700万円
です。
利益の概算は約4,200万円なのに、手元には約2,700万円しか残りません。
理由は、借入元本の返済は現金を減らしますが、原則として借入元本返済額そのものが法人税計算上の損金になるわけではないからです。
さらに、この2,700万円から法人税等や消費税等の支払いが生じる可能性があります。
つまり、法人売却では、
「利益がいくら出るか」と「最終的に現金がいくら残るか」を必ず別計算する
必要があります。
P/L・キャッシュ・B/Sを別々に見る
| 視点 | 確認すること |
|---|---|
| P/L | 売却損益がその事業年度の利益へどう影響するか |
| キャッシュ | 借入返済・費用・税金等の後にいくら現金が残るか |
| B/S | 不動産・借入が減った後、現預金・負債・純資産がどう変わるか |
売却益が大きいことと、会社の財務状態が良くなることは同義ではありません。
会社全体の資産・負債・収益力まで見る必要があります。
建物部分には消費税が関係する
法人が事業として使用していた収益物件を売却する場合、消費税では土地と建物を分けて考えます。
- 土地の譲渡:非課税
- 建物の譲渡:原則として課税取引
ただし、実際の納税義務は、法人が課税事業者か免税事業者かなどによって変わります。
住宅家賃が消費税非課税だからといって、賃貸住宅の建物そのものを売却するときまで非課税になるわけではありません。
土地・建物の価格配分は合理的に決める
土地と建物を一括して売却する場合は、建物部分について消費税が関係するため、土地・建物の価格配分が重要になります。
国税庁は、建物代金が区分されていない場合、合理的な区分方法として、例えば、
- 譲渡時の土地・建物それぞれの時価比率
- 相続税評価額・固定資産税評価額による按分
- 土地・建物それぞれの原価による按分
などを示しています。
「消費税を減らしたいから建物価格を低くする」といった理由だけで恣意的に配分するのではなく、合理的な根拠を持って決める必要があります。
法人税率を一つの数字で掛けない
法人税について、「売却益の30%くらい」と概算されることがあります。
ざっくりした資金計画として使うことはありますが、実際の税負担は法人によって異なります。
法人税率は、資本金・所得金額・法人区分等によって異なります。
さらに、
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
なども関係します。
また、2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税も導入されています。
ただし、防衛特別法人税はすべての法人に一律で売却益の4%が追加される制度ではありません。
一定の基準法人税額から原則として年500万円の基礎控除額を差し引いた課税標準法人税額に4%を乗じる仕組みです。
売却益へ一律の税率を掛けるのではなく、その事業年度の会社全体の所得から税額を試算することが重要です。
繰越欠損金があれば売却益と相殺できる場合がある
法人に利用可能な繰越欠損金がある場合、収益物件の売却によって所得が増えても、欠損金の繰越控除が税額へ影響することがあります。
青色申告法人について、一定の要件を満たす欠損金は、原則としてその後の事業年度へ繰り越す制度があります。
2018年4月1日以後に開始する事業年度で生じた欠損金については、繰越期間は原則10年です。
参考:国税庁「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
ただし、法人区分等によって控除限度額が異なる場合があります。
「4,000万円の売却益が出たから、その4,000万円全部に税金がかかる」とも、「欠損金があるから税金はゼロ」とも単純には判断できません。
法人所得が赤字でも「税金が何もない」とは限らない
売却益と他の損失を相殺した結果、法人税計算上の所得が小さくなったり、欠損になったりすることがあります。
しかし、それだけで「税負担はゼロ」とは限りません。
例えば、
- 建物売却に関係する消費税
- 法人住民税の均等割
などは別に確認する必要があります。
新潟市の法人市民税にも、所得に応じる法人税割とは別に、法人の資本金等や従業者数等に応じた均等割があります。
法人所得だけではなく、税目ごとに支払いを確認して手残りを計算する必要があります。
決算期の前後で売却時期を考える意味
法人では、売却損益がその事業年度の所得へ影響します。
そのため、
- 本業利益が大きい年度
- 大きな損失が予定されている年度
- 繰越欠損金を利用できる年度
- 設備投資等を予定している年度
では、税務上の結果が変わる可能性があります。
ただし、税金のためだけに売却を先送りし、買主や市場価格を失えば本末転倒です。
弊社では、不動産市場としての売却タイミングと、法人の決算・税務上のタイミングを分けて考える方がよいと考えています。
売却後のB/Sを確認する
法人で収益物件を売却すると、B/Sも大きく変わります。
- 土地・建物などの固定資産が減る
- 売却代金により現預金が増える
- 借入返済により有利子負債が減る
- 売却損益・税負担を通じて純資産にも影響する
借入比率の高い物件を売却して有利子負債を圧縮すれば、財務体質が改善する場合があります。
一方、安定した利益を生んでいた物件を売却すれば、翌期以降の売上・利益は減ります。
「借金が減ったから良い」「現金が増えたから良い」ではなく、売却後の収益力まで確認することが重要です。
売却前と売却後のB/Sを並べる
| 確認項目 | 売却前 | 売却後 |
|---|---|---|
| 現預金 | 現在残高 | 売却代金-借入返済-費用-税金等を反映 |
| 収益不動産 | 土地・建物を保有 | 売却により減少 |
| 有利子負債 | 現在の借入残高 | 返済分だけ減少 |
| 純資産 | 現在 | 売却損益・税負担等を反映 |
| 翌期以降の収益力 | 物件収益あり | 売却物件の収益はなくなる |
このように整理すると、収益物件の売却を単なる不動産取引ではなく、会社の資産入替えとして考えやすくなります。
売却するなら、解放された資本を次にどう使うかまで考える
法人が収益物件を売却する意味は、利益確定だけではありません。
売却によって解放された資本を、
- 次の収益物件へ再投資する
- 既存借入を返済する
- 本業へ投資する
- 設備投資へ回す
- 運転資金を厚くする
など、どこへ配分するかまで考えます。
例えば、現在の市場価格に対する税引後キャッシュフローが低く、他により高い収益性や事業上の効果が見込める投資先があるなら、売却して資本を組み替える合理性があります。
反対に、売却しても資金の使い道がなく、安定した賃料収入だけを失うのであれば、売却を急ぐ必要はないかもしれません。
「高く売れるから売る」ではなく、「この資本を今後どこに置くのが会社にとって合理的か」を考えることが重要です。
次の収益物件を買えば税金がなくなる、とは限らない
現在の収益物件を売り、その資金ですぐ別の物件を購入しても、それだけで売却益への課税が自動的になくなるわけではありません。
法人には、一定の要件を満たす特定資産の買換えについて圧縮記帳を利用できる制度があります。
例えば、長期所有資産の買換えでは、所有期間が10年を超える国内の一定の土地・建物等から、一定の国内資産へ買い換えるケースなどが対象となります。
ただし、
- 対象となる譲渡資産
- 買換資産
- 取得時期
- 事業供用
- 届出時期
など、細かな要件があります。
2024年4月1日以後の一定の買換えでは、所定の時期までに税務署へ届出書を提出することも要件となっています。
また、圧縮記帳は単純に税金が消える制度ではなく、買換資産の帳簿価額を圧縮することで課税を将来へ繰り延べる性質があります。
「売って次を買えば節税できる」という前提で売却を決めず、売却前に税理士へ適用可能性を確認することが重要です。
売却前に準備しておきたい法人資料
- 固定資産台帳
- 直近の貸借対照表
- 損益計算書
- 法人税申告書
- 減価償却明細
- 借入返済予定表
- 金融機関の残高資料
- 購入時の売買契約書
- 土地・建物の取得価額内訳
- 修繕・資本的支出の履歴
- 消費税申告関係資料
- 繰越欠損金を確認できる資料
- 最新のレントロール
特に、固定資産台帳・税務申告資料・借入残高が揃うと、売却価格から税引後手残りまで整理しやすくなります。
法人所有の収益物件売却で確認したい8つの数字
- 現在の成約見込価格
- 土地の税務上の簿価
- 建物等の税務上の簿価
- 決済時の一括返済額
- 売却時の資金支出
- 建物部分に関係する消費税
- 売却年度の法人全体の所得・利用可能な欠損金
- 税引後で法人へ残る現預金
さらに経営判断として、
- 売却前後の有利子負債
- 売却後の純資産
- 翌期以降に失う賃料収益
- 解放された資本を次にどこへ投資するか
まで確認します。
法人所有だからこそ「最高値」だけで判断しない
もちろん、不動産会社としてより良い価格で売却できる可能性を追求することは重要です。
ただし、法人の経営判断では、最高値で売れるかだけでは不十分です。
例えば、
- 高い売却益が出る
- 借入返済後の現預金はそれほど多くない
- そこから税負担も発生する
- 翌期以降は安定した賃料収入がなくなる
のであれば、それでも売却する意味があるかを考えます。
反対に、
- 収益性が低下している
- 大規模修繕が近い
- 買主融資の出口が狭くなりそう
- 有利子負債を圧縮したい
- 本業や別の投資へ資本を振り向けたい
のであれば、売却する合理性が高まる場合があります。
不動産単体の損得ではなく、会社全体の資本配分で判断することが重要です。
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法人所有のアパート・収益物件を売却するときは、査定価格だけを見て判断しません。
まず、
- 売却価格
- 土地・建物の税務上の簿価
- 借入残高
- 売却時の資金支出
- 消費税
- 法人全体の所得・欠損金
- 税引後手残り
を分けて整理します。
特に重要なのは、
売却益とキャッシュは別物であり、借入元本の返済は現金を減らしても、そのまま売却益を減らす費用にはならない
という点です。
さらに法人の場合は、売却後に、
- 現預金がいくら残るか
- 有利子負債がどこまで減るか
- 純資産がどう変わるか
- 翌期以降の収益力がどう変わるか
- その資本を次にどこへ配置するか
まで考える必要があります。
「この物件はいくらで売れるか」ではなく、「この物件を売ることで会社のB/S・キャッシュ・収益力をどう変えたいのか」。
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