コラム
2024.11.03 実家売却は相続の前と後でどう変わる?ベストなタイミングを徹底解説
相続をきっかけに実家の売却を考える方も多いのではないでしょうか。
実家の売却は、大きく相続前と相続後の2つのタイミングに行う場合が多いです。状況によってかかる税金や使える特例が異なるため、税金の仕組みや特例を事前に理解する必要があります。
この記事では、新潟市中央区の竹鼻不動産事務所が、実家売却の正しい手順や損をしない税制度を解説します。
売却後のトラブルを避けるためにも、売却時期や方法を判断できるようにしていきましょう。
実家の売却を相続前後のどちらにするか判断する基準
実家の売却を相続前後のどちらにするか決める基準は、かかる税金です。
実家の売却に関する税金は、大きくわけて譲渡所得税と相続税があります。相続前後のどちらにするか判断する際は、特に譲渡所得税が重要です。
譲渡所得税には特例が存在します。譲渡所得税の特例である、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を適用できるかどうかによって、相続前後のどちらで売却するほうがよいかが変化します。
適用可能な場合、3,000万円まで譲渡所得が控除できるため、相続後に売却したほうが手元に多くのお金を残せます。
適用できない場合、親が居住中の家であれば「マイホームを売ったときの特例」を活用できます。譲渡所得税の特例を利用する場合は、相続前に売却した方が支払う税金を抑えられるでしょう。
譲渡所得税と相続税|ポイントとなる2種類の税金
譲渡所得税と相続税は、共に相続資産売却にかかる重要な税金です。
相続前に実家を売却すると発生するのが譲渡所得税です。不動産や株式などの資産を売却して得た利益にかかり、所有者(親)が税負担を負います。
一方、相続後に実家を売却すると譲渡所得税に加え相続税が発生します。
相続税は相続資産の総額が基礎控除額の超過分に対して払う税金です。または、亡くなった方(被相続人)の資産を相続した際にかかり、相続人が税負担を負います。
それぞれの税金について詳しく見ていきましょう。
相続前に実家を売却すると「譲渡所得税」が発生
相続前に実家を売却した場合に発生するのが譲渡所得税です。
譲渡所得は「売却価格 − 購入価格 − 必要経費」で計算し、算出された数値に決められた税率を乗じます。
不動産の場合、所有期間によって譲渡所得に乗じる税率が異なります。所有期間5年以内の場合は短期譲渡所得で約40%、5年を超える場合は長期譲渡所得で約20%の税率です。所有期間が5年以上になると、優遇が短期譲渡所得の約半分です。
ただし、所有期間は単純に5年超(5年以内)で判別するわけではありません。
長期譲渡所得とは譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものをいいます。
短期譲渡所得とは譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のものをいいます。
引用元:国税局
たとえば、12月31日に譲渡した場合は翌日の1月1日から2年目に入ります。あくまでも、所有が始まった年の1月1日からカウントを始めます。
短期譲渡所得と長期譲渡所得では税率に倍の差が生じるため、必ず覚えておきましょう。
相続後に実家を売却すると「譲渡所得税+相続税」が発生
相続後に実家を売却すると発生するのが、譲渡所得税と相続税です。
譲渡所得税は資産を売却して得た利益にかかるため、相続前後どちらの場合でも発生します。ただし、譲渡所得税は資産の所有者に税負担の義務があるため、相続後の売却では税負担は相続人が負います。
相続税は不動産や株式、預貯金などの相続資産の基礎控除額を超えた分に対して課税されます。
基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算し、算出された金額を超える部分が超過分です。
実家を相続した場合、時価(実際に実家を売却したときの価格)の80%程度で税金を計算します。
そのため、実家を売却して現金を相続するより不動産のまま相続し、その後に売却したほうが相続税を減額できる可能性があります。
資産や相続人数によって税額が大きく変わるため、事前に相続対策を行いましょう。
実家の相続前に利用可能な特例3選
実家の相続や売却では大きなお金が動くため、税負担を軽減する特例が用意されています。
まずは、実家を相続する前に利用できる特例を3つ紹介します。
マイホームを売ったときの特例
マイホームを売ったときの特例は、譲渡所得の一種です。自宅の売却であれば所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができます。
自宅の売却とあるように、相続前に被相続人(親)が自宅の売却手続きをしなければなりません。
マイホームを売ったときの特例は不動産売却時において、もっとも節税効果が高い特例の1つです。
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
マイホームを売ったときの軽減税率の特例は、譲渡所得の一種です。自宅を売却した際は、長期譲渡所得の税額を通常よりも低い税率で計算します。
売却の際に一定の条件をクリアする必要がありますが、マイホームを売ったときの特例と併用可能です。条件を満たせば追加で節税できるので、入念に確認しておきましょう。
参照:No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例 国税庁
特定のマイホームを買い換えたときの特例
特定のマイホームを買い換えたときの特例は、譲渡所得の一種です。
自宅を買い換えた際に、一定の条件のもと譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられます。
自宅の売却で利益が発生しても、すぐに譲渡結果税を支払う必要がありません。あくまでも税負担を次の売却時まで繰り延べる制度のため、将来的な支払は必須です。
また、マイホームの買い替えが対象条件となるため、最終的な税負担は増額する傾向です。
特定のマイホームを買い換えたときの特例は、スムーズな住み替えを実現できます。しかし、税負担を将来に繰り延べている点で使いどころが難しい特例といえるでしょう。
No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例 国税庁
実家の相続後に利用可能な特例3選
実家を相続した後に利用できる特例を3つご紹介します。それぞれ詳しく見ていきましょう。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、譲渡所得の一種です。被相続人(親)が1人暮らしをしており、相続後に空き家となった場合に適用できます。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、相続した空き家を売却した際に、最大3,000万円の特別控除を受けられる制度です。相続した実家が一定の条件を満たしていれば、税負担が大幅に軽減されるため、適用可能な場合は積極的に利用しましょう。
一部の条件を紹介すると、以下となります。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
適用できる場合は、実家の相続後に売却したほうが手元に多くのお金を残せるためおすすめの方法です。
参照:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例は、譲渡所得の一種です。相続した資産を一定期間内に譲渡した場合、通常の取得費に加えて相続税額の一部を取得費として加算できます。
この特例を活用することで譲渡所得が減り、結果として課税額を減らせるのが特徴です。
特例の適用を受けるための要件は、以下のとおりです。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- 財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を活用することで、取得費が増え、譲渡所得の圧縮が可能です。
特例を利用するためには、譲渡の時期や条件などに制限があるため、事前に調べておきましょう。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、相続税の一種です。
小規模宅地等の特例は、居住用の宅地や事業用の土地の税額を軽減できます。相続によって取得した資産のうち、居住用または事業用として使用していた不動産の一定の面積まで相続税を減額します。
特例を適用するための主な要件は、以下の通りです。
- 被相続人が亡くなった時点で、宅地が被相続人の居住や事業に使用されていたこと
- 相続人が宅地を相続し、その後も一定期間、居住や事業を継続すること
- 相続人が特定の親族であること(例、配偶者や同居していた子など)
評価額が大幅に減額されるため、結果として相続税の額も軽減されます。ただし、適用不可の場合もあるため事前の確認が必要です。
参照:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
その他実家の相続前後にかかる税金
実際に実家の相続や売却をしようとする場合、細々とした税金がかかります。
思いもよらない場面で、税金がかかるとあせってしまう人もいるのではないでしょうか。ここでは実家の相続や売却にかかる、その他の税金について紹介します。
印紙税
印紙税は印紙税法で定められた契約書や、領収書などの文書に対して課される税金です。おもに不動産売買契約書を取り交わす際に印紙税が発生します。
契約書や領収書を作成する際は、収入印紙の貼り忘れや金額が不足していないかなどには注意しましょう。ミスが発覚した場合、本来払うべき印紙税の2倍相当の金額が科されることがあります。
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記申請の際に課税される税金です。
不動産の購入や相続によって不動産を取得した際には、所有権の登録を行います。他にも住宅ローン利用時に、金融機関が抵当権を設定するために登記申請を行う際に課税されます。
居住用不動産の取得や相続登記は、登録免許税が軽減される場合があるため確認が必要です。
- 住宅用不動産の取得:一定の条件を満たすと、固定資産税評価額に0.4%をかけて算出可能
- 相続登記:相続により不動産を取得する際の登記では、一般的な優遇よりも低税率が適用
支払い方法は、登記を行う法務局で収入印紙を購入し、申請書に貼付して納税する形が一般的です。他にも振込や銀行振込する場合もあります。
不動産の登記は、法的に有効性を持たせるために大切な手続きです。登記申請をしない場合、権利が認められないといったトラブルを引き起こす可能性があります。
登録免許税を支払う際は、金額の確認と適切な手続き方法を確認することが大切です。
実家を売却する手順
相続前の売却は、一般的な不動産売却と変わりません。一方、相続後の売却に関しては、相続前の売却手続きにプラスしていくつかの手順が加わります。
- 相続登記(名義変更)を行う
- 遺品整理(実家を片付ける)
- 査定を依頼
- 訪問査定を受ける
- 仲介業者と媒介契約を結ぶ
- 販売活動を始める
- 売買契約を結ぶ
- 引き渡し
上記の手順は、不動産仲介を利用して売却するケースです。不動産仲介とは、売主と買主の間に仲介役として不動産業者が入る売買方法です。
不動産業者が直接物件を購入する買取であれば、手順を減らし短期間で売却できます。
注意すべきところは、買取では仲介と比較して売却価格が低めに設定される点です。それぞれのメリット・デメリットを把握したうえで、状況に合った方法を選択しましょう。
なお、相続後の売却に必要なのは「相続登記」と「遺品整理」です。以降の手順は一般的な不動産売却と変わりません。
以下で、相続後に実家を売却する際に必要な2つの手順について解説します。
相続登記を行う
実家を相続した場合の名義変更手続きを、相続登記といいます。
不動産の売却は、基本的に所有者本人のみが手続きが可能です。そのため、相続した不動産を売却する場合、相続登記の完了後に売却手続きを実施します。
相続登記は2024年4月以降、義務化された必須の手続きです。相続が開始して所有権を取得したことを知った日から、3年以内に相続登記の手続きをしましょう。正当な理由もなく相続登記申請をしなかった場合、10万円以下の過料の対象となります。
つまり、実家を相続した場合は売却の有無にかかわらず、必ず相続登記をしなければなりません。
実家を片付ける
実家の相続後に売却をするにあたって、遺品整理が必要になります。
実家に遺品が多数残されている状態での売却は難しい場合が多く、不用品処分費用として査定額を引き下げられることも考えられます。また、遺品に相続税がかかるものが含まれている可能性もあるため、速やかに実施するようにしましょう。
遺品整理は遺族でも行えますが、遠方に住んでいる場合や身体的な問題などで作業ができないことも考えられます。そのときは、遺品整理業者への依頼も検討しましょう。費用はかかりますが、遺品整理を速やかに行えます。
相続した実家の片付けは大切ですが、遺族の生活もあります。無理のない範囲で、業者の手を借りるなどして遺品整理を実施しましょう。
相続後に不動産売却する方が節税効果は高い
大半の場合は実家を売却するのであれば、相続後がおすすめです。
相続後に実家の売却を行う場合は、相続税や課税評価額が減税されるため、節税効果が高まります。そのため、実家の売却後により多くの金額を手元に残すことが可能です。
ただし、相続後に相続財産の遺産分割を行うため手間がかかり、トラブルに発展するケースも考えられます。
相続前に実家の売却を行う場合は、現金として遺産を相続できるため、公平に遺産分割がしやすく、売却手続きもスムーズです。
ただし、現金は相続財産として評価額が高く、支払う相続税の負担が大きくなる可能性があります。
これらの理由から、状況によって売却のベストなタイミングは変わります。
相続の前後どちらのタイミングで売却するかは、所有者の意向や相続人の状況に応じて判断しましょう。
まとめ
相続を伴う実家の売却には、複雑な手続きが多くあります。その後の資金計画も考えて実施しなければならないため、決めることが山積みです。
また、実家を売却する場合、相続の前と後でかかる税金や使える特例が異なります。事前に実家の相続前後のケース、それぞれで税金がいくらかかり、どの特例を活用できるのかを理解しておきましょう。
計画的に特例や制度を活用することで、負担を軽減できる可能性があります。
実家の相続や売却は、大きなお金が動く上に制度も複雑です。判断が難しい場合は、専門家や業者を上手に活用して売却にベストなタイミングや方法を理解してから決めるようにしましょう。