「今は家賃が入っているけれど、いつまで持っていたらよいのだろう」。アパートの売却時期は、毎月の入金があるからこそ決めにくいものだと思います。
満室なら持ち続けるべきとも、築年数が進んだら早く売るべきとも、私は一律には考えません。今の収入を続けるために、これからいくら必要なのか。売ったあとに、借入れや税金を差し引いていくら残るのか。まず、この二つを同じ条件で比べたいです。
私が売却の検討を早めに勧めたいのは、次の修繕や退去が重なると、生活のためのお金まで持ち出すことになりそうな場合です。反対に、空室と修繕を見込んでも資金が残り、管理を続ける負担も受け入れられるなら、売却を急ぐ必要はないと考えます。その分かれ目を、家賃と築年数だけでなく、ご自身の資金と予定から考えていきます。
最初に見るのは、家賃収入より手元に残るお金です
年間の家賃収入が同じでも、管理費、固定資産税、保険料、共用部の費用、修繕、借入返済によって、残るお金は違います。満室時の想定家賃と、実際の入金も分けて確認します。
私は、入居率だけで保有継続を勧めたくありません。たとえば家賃を下げて満室にしている場合、退去が続くと原状回復費や募集費が重なる場合には、見た目の入居率ほど資金に余裕がないこともあるからです。
一時的な空室でも、少額の手直しや募集方法の改善で対応できそうなら、私なら先にその改善を提案します。ただし、売却のために家賃を大きく下げ、満室という見た目を作ることには慎重です。下げた賃料が今後の収入として買主様に評価されれば、入居率が上がっても売却価格が上がるとは限らないからです。
買主様へ説明するための資料も、この段階で整理します。家賃一覧の見方はレントロールを整理する記事で詳しく説明しています。
大きな修繕の前は、売却を比較するタイミングです
外壁、屋根、給排水設備などの修繕が近づいたときは、持ち続けるかを考える良い機会です。ただし、修繕前に売れば、その費用をそのまま回避できるという意味ではありません。
買主様も購入後の工事を見込みます。修繕が必要な状態なら、価格の調整を求められる可能性があります。工事をしてから売った場合も、かけた費用が全額価格に上乗せされるとは限りません。
売るためだけに大きな工事をするなら、私は発注を急がず、工事前の売却条件も先に調べることを勧めます。工事費と工事期間中の負担を、売却価格の上昇で取り戻せる見通しがなければ、売主様の手残りを減らすことになるからです。
買主様が工事の内容や時期を自分で決めたい場合には、状態と見積りを開示して、その負担を価格に織り込むほうが話を進めやすいこともあります。一方、保有を続けるなら、その工事で入居を維持できる期間と、その間に残るお金を考えます。売るための工事と、持ち続けるための工事では、かける費用の判断が変わります。
雨漏りなど、入居者様の生活や安全に関わる不具合への対応は、売却判断を理由に先延ばしにしません。売る予定があっても、必要な対応と事実の説明は別に進めます。
「3年待てば家賃が増える」を、売却時点まで計算する
持ち続けると家賃を受け取れます。一方で、修繕費が発生したり、売却価格が変わったりします。受け取る家賃だけを足すと、保有のほうが有利に見えすぎます。
次は考え方を示すための仮の例です。実際の相場や税額を示すものではありません。売却時の諸費用・税金は便宜上どちらも400万円とし、保有中の年間手残りは、通常の経費・税金・借入返済を支払ったあとの100万円とします。臨時の大規模修繕費は、この100万円には含めません。
| 比較する項目 | 今売る | 3年後に売る |
|---|---|---|
| 売却価格 | 4,000万円 | 3,800万円 |
| 売却時の借入残高 | 2,500万円 | 2,200万円 |
| 売却時の諸費用・税金 | 400万円 | 400万円 |
| 売却時の手残り | 1,100万円 | 1,200万円 |
| 保有中3年間の手残り | ― | 300万円 |
| 合計 | 1,100万円 | 1,500万円 |
この条件なら、3年間保有するほうが400万円多く残ります。ただし、その間に別途500万円の大規模修繕を支払い、売却価格など他の条件が同じなら、合計は1,000万円になり、今売る場合を下回ります。修繕によって売却価格や家賃が変わるなら、その条件も入れ直します。
借入元金の返済は保有中の手残りに反映し、売却時には減った借入残高を使っています。元金が減った分を、さらに利益として足すことはしません。また、この例では資金を受け取る時期の違いや、今売ったお金の運用効果は考慮していません。
この例で私が見たいのは、「待てば400万円多い」という結果より、その400万円の差がどれだけ崩れやすいかです。売却価格や税額などを同じ条件に置けば、追加負担が400万円で今売る場合と同額になります。修繕や空室の見込みがその差に近いなら、3年間待つ案を強くは勧めません。
もう一つは、修繕代を払う時点の資金です。3年後の売却でお金が戻る計算でも、来年の工事代を用意できなければ保有を続けられません。私は、最後の合計額だけでなく、途中で資金が不足しないかを見ます。借入れで工事代を用意するなら、その返済と売却時の残債も入れて計算し直します。
反対に、必要な修繕を見込み、売却価格を控えめに置いても手残りが増え、途中の資金にも余裕があるなら、保有を続ける理由があります。将来高く売れるという期待だけに頼らず、家賃収入でその判断を支えられるかを大切にしたいです。
築年数は、買主様の融資と一緒に考える
築年数が進むと、買主様が利用する金融機関によっては、融資期間や借入額の条件が厳しくなることがあります。ただし、構造や物件の状態、金融機関、買主様の属性によって違いがあるため、「築何年までなら必ず売れる」という線引きはできません。
同じ価格でも、返済期間が短くなると、毎年の返済負担が重くなる場合があります。家賃から経費と返済を引いた資金が少なければ、買主様は購入額を下げるか、自己資金を増やす必要が出てきます。
だから、保有を延ばす理由が「家賃が入るから」だけなら、今の状態で買主様が検討できる価格も一度出しておくことを勧めます。ご自身の借入残高が減っていても、買主様の融資条件が厳しくなり、売却価格がそれ以上に下がれば、待った効果が小さくなるためです。実際の融資条件は金融機関と買主様によりますが、売却価格が下がる場合も含めて比較します。
金利についても、これから上がる・下がると断定して売却を急がせるつもりはありません。現在の返済条件と、金利が変わった場合の資金の余裕を確認しておくことのほうが、判断に役立ちます。
新潟市の物件でも、入居需要を一括りにしない
新潟市内だから需要がある、とだけ説明しても、そのアパートを持ち続ける理由にはなりません。単身向けなのか、ご家族向けなのか。車を使う入居者様に対して駐車場が足りているか。近隣の募集物件と比べて家賃や設備に無理がないかを見ます。
たとえば駐車場が足りないことが募集の障害なら、室内設備を新しくするだけでは空室が解消しないかもしれません。反対に、募集写真や内見の段取りに問題があるなら、大きな工事より先に改善できることがあります。
たとえば車を使う入居者様を想定した物件で、駐車場を確保できない状態が続いているなら、私は設備を足す工事より、募集対象と賃料の見直しを先に考えます。その条件でも収支が合わず、改善に大きなお金が必要なら、費用をかける前に売却を比較することを勧めます。
一方、同じ条件の周辺物件には入居があり、写真や募集対応に改善の余地があるなら、それだけで保有を諦めるのは早いと思います。管理会社と見直す内容・費用・期限を決め、改善の結果を見てから判断します。「しばらく様子を見る」で終わらせず、何を変えて待つのかを決めることが大切です。
税金と借入残高は、別々に確認する
売却後の手残りを計算する際、借入れを返した残額にそのまま税率をかけるわけではありません。個人の土地・建物の譲渡所得は、売却額から取得費と譲渡費用などを差し引いて計算し、建物の取得費では減価償却も関係します。
個人の売却で長期・短期を分ける所有期間は、売った年の1月1日時点で判断します。単に購入から丸5年が経てばよいわけではありません。制度の基本は国税庁の長期譲渡所得の説明でも確認できます。
法人所有か個人所有かによっても扱いが異なります。売却価格の目安を出した段階で税理士に税額を確認し、金融機関には返済額や抵当権抹消に向けた条件を確認します。税金の都合だけで待つ場合も、その間の修繕や空室で負担が増えないかを並べて考えます。
資金が尽きるまで持つのではなく、選べるうちに売却を考える
保有を続ける案を勧められるのは、修繕・空室・返済を負担しても、生活に必要なお金を確保でき、管理を続ける意思がある場合です。私は、収益が見込めるという理由だけで、ご本人の負担を置き去りにしたくありません。
近い時期の工事代を用意できない、持ち出しが続いている、管理を続けるのが難しい。そうした事情があるなら、支払いに追われる前に販売の準備を進めることを勧めます。期限が迫ってからでは、価格交渉や引渡し条件を落ち着いて比べにくくなるためです。
まずは家賃一覧、年間の収支、返済予定表、修繕履歴を見ながら、今売る場合と持ち続ける場合を比べます。資料が全部そろっていなくても、確認する順番から整理できます。
すぐに売る結論にならなくても、必要な修繕資金と生活費を分けて確保し、その余裕を失う前に再検討する時期を決めます。売却にも時間がかかるので、「残ったお金がなくなったら売る」では遅いことがあります。持ち続ける理由があるなら、その理由を。売却を勧めるなら、待つことで何の負担が増えるのかを。数字とご事情の両方からお伝えしたいです。
