なぜ不動産会社ごとに査定額が異なるのか|「どれが本当?」で止まらないための見方
不動産を売ろうと思って査定を取ると、だいたい最初にこうなります。
「A社は3,000万円、B社は3,500万円、C社は3,200万円。……結局どれが本当?」
売主様の感覚だと「高額査定の会社ほど良い会社」となりがちですが、実際はそうではありません。
査定は「計算」ではなく「見立て」と「戦略」が混ざったものだからです。
この記事では、査定額が会社ごとに変わる理由を、売主様が判断できる形に分解します。
1. そもそも査定額は「答え」ではなく「仮説」
最初に大事な前提を置きます。
査定額は、鑑定評価みたいに一発で決まる“正解”ではありません。
不動産会社が出しているのは、ざっくり言うとこうです。
- 「この価格で売れそう」(実勢に寄せた仮説)
- 「この価格で売り出したい」(戦略としての仮説)
- 「この価格なら媒介が取れそう」(営業としての仮説)
この3つが混ざるので、会社が違えば数字もズレます。
つまり、査定額の差は「能力差」だけじゃなく「立場の違い」でも起きるんです。
2. 会社ごとに「見ている市場」が違う
同じ新潟市でも、会社によって市場の見え方が変わります。
2-1. 得意なエリア・物件種別が違う
マンションに強い会社、土地に強い会社、戸建てに強い会社。
得意分野が違うと、過去の成約事例の持ち方が違います。
- 実績が多い分野 → 強気でも「売れる根拠」を持っている
- 実績が薄い分野 → 守りの査定(低め)になりやすい
売主様からすると「なんでそんなに差が?」ですが、会社側からすると見えてる世界が違うって話です。
2-2. 参照しているデータが違う
査定の根拠に使うデータは主に以下です。
- レインズ等の成約事例
- ポータルの売出し事例
- 自社の成約データ(これが一番強い)
- 直近の“値下げして決まった”実情(ここが重要)
同じ成約事例を見ていても、
「どの事例を採用するか」・「どこまで補正するか」で結果は変わります。
3. 査定は「価格」ではなく「売り方」の提案でもある
ここがズレの本丸です。
査定額は、物件の価値だけでなく、会社の“売り方”が反映されます。
3-1. 早く売り切る会社は、現実的な数字になりやすい
売却が長期化すると、売主様が疲れます。
問い合わせも減って、結局値下げして終わる。これはよくある流れです。
だから最初から、
「この価格帯が一番反響が出て、決まりやすい」
このラインで出してくる会社もあります。
数字は派手じゃないけど、筋は通っていることが多いです。
3-2. 媒介契約を取りたい会社は、高値を出しやすい
耳が痛い話ですが、実務ではあります。
売主様は最初、どうしても「高い査定」を選びやすい。
だから、
- まず高めに出す
- 反響がなければ「市場が…」と言って値下げ
- 結果、時間だけが過ぎる
この流れが起きます。
売主様が悪いわけじゃなく、構造としてそうなりやすいんです。
3-3. 両手狙いの会社は“出し方”が独特になることがある
自社の買主顧客に売りたい会社は、
「自社の顧客が動く価格」に寄せて査定を出すことがあります。
高いとも低いとも限らず、
“その会社の都合が入った数字”になりやすいので、根拠確認は必須です。
4. 査定方法が違うと、当然ズレる
同じ会社でも、査定の取り方で数字は変わります。
4-1. 机上査定は「情報の粗さ」分だけブレる
住所・面積・築年数・周辺事例だけで出すので、
室内状態、日当たり、道路付け、境界、近隣状況みたいな差が反映されません。
早いけど、精度は“相場の目安”です。
4-2. 訪問査定は「現場の情報」が乗る
訪問すると、価格を動かす材料が増えます。
- リフォーム履歴
- 劣化状況(雨漏り・傾き・臭い・カビなど)
- 眺望・抜け感・日照
- 接道・駐車・動線
- 管理状態(共用部・庭・外構)
ここまで見て初めて、成約価格に近い数字になりやすいです。
4-3. AI査定は便利だけど“現場”に弱い
AI査定は、データ上はそれっぽい数字を出します。
ただ、AIが苦手なのはまさに不動産のキモである、
- 匂い
- 劣化
- 近隣の癖
- 個別性(リフォームの質・眺望・道路付け)
ここが抜けるので、参考止まりが安全です。
5. 担当者の力量でも普通にズレる
これも現実です。
経験がある担当者は、
- 反響が出る価格帯
- 値下げせず決まるライン
- 逆に“長期化する地雷価格”
を肌感で持っています。
逆に、経験が浅いと
- とりあえず安全側に寄せて低い
- もしくは根拠薄く高い(上司や営業方針に引っ張られる)
どっちにも振れます。
だから、数字そのものより、説明の質を見た方がいいです。
6. 売主様が「振り回されない」ための見方
査定額の差はなくなりません。
だから、売主様側が“見る順番”を変えるのが一番早いです。
6-1. 「査定額」ではなく「根拠」を比べる
聞くべきはこれです。
- どの成約事例を根拠にしているか
- その事例と比べて、何をどう補正したか
- 売出価格はどう置き、どんな手順で売り切るか
- 反響がなかったら、いつ何を変えるか
これが言えない高値査定は、正直危ないです。
6-2. “高く言う”と“高く売る”は別物
査定額を高く言うのは簡単です。
高く売るのは、戦略と実行が要ります。
ここを混同すると、売却が長期化しやすいです。
6-3. 最低3社で、訪問査定まで取る
机上だけで判断するとブレが大きい。
売る気があるなら、訪問査定で比較した方が早いです。
まとめ|査定額が違うのは「自然」。見るべきは数字ではなく中身
不動産会社ごとに査定額が違うのは、
- 得意分野・市場の見え方が違う
- 参照データと補正が違う
- 売り方(戦略)が違う
- 査定方法(机上/訪問/AI)が違う
- 担当者の経験値が違う
これらが重なった結果です。
だから売主様がやるべきは、
「一番高い会社を選ぶ」ではなく、
“その数字で売れる道筋を説明できる会社”を選ぶこと。
査定額はゴールじゃなくスタートです。
スタートで気持ちよくなりすぎると、後半でしんどくなります。
ここだけは、売却の現場で何度も見てきたので、強めに言っておきます。
