コラム
2025.01.27 実家を捨てる長男|継がない決心をしたときの4つの対処法

長男なのだから、実家を継がなければならないと、考える方もいるのではないでしょうか。
とくに地方では、長男が慣習的に実家を継いでいるケースも多いようです。とはいえ、核家族化が進む現代において、実家を継ぐために自宅を離れるのは現実的ではありません。
相続割合を見ても兄弟間で優劣はないため、長男だからと言って責任を負う必要はないと言えます。
この記事では新潟市中央区の竹鼻不動産事務が、長男が実家を継がないときの4つの対処法と注意点を解説します。
実家を捨てるか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
相続は兄弟全員平等
民法第7章第877条によって、相続や親の扶養義務は兄弟姉妹全員にあると定められています。
昭和中期頃までは長男が家を継いで土地や家屋を守っていくのが当然でした。しかし、家制度が廃止された今となっては、長子が実家を継ぐ必要はありません。
そのため、実家近隣で暮らしている兄弟姉妹がいるなら、その中の誰かが引き継ぐのもよいでしょう。末っ子でも問題ありません。
昔ながらの考えや伝統を守るのも大切ですが、家庭ごとにもっともよいかたちを見つけましょう。
長男は実家を守るべきと言われる背景
家制度が廃止された現在でも、家族の安定と連続性を重視する文化や、歴史的な価値観が深く根付いています。
家名維持や財産管理、親の介護を含む責任の所在を明確にする必要がある場合、長男が矢面に立たされる場面が多くあるでしょう。
ここでは、長男が実家を守るべきと言われる3つの背景を紹介します。
- 家制度の名残り
- 地方の慣習
- 本人の思い込み
それぞれ詳しく見ていきましょう。
家制度の名残り
家制度とは、家長たる戸主が絶対的な権利を持ち、家族全員を統率する制度です。1898年に制定された明治民法によって定められた家族構造の法的枠組みで1947年に廃止されるまで続きました。
一般的に子、親、祖父母の3世代で1つの家を形成し、家ごとに戸籍を設けていました。結婚するにも戸主の承諾が必要で、住まいでさえも戸主の同意なしでは決められない状況が続きました。
このような絶対的権利を持つ戸主は、長男に引き継がれます。
権利や全財産を引き継ぐと同時に、戸主には家族全員を扶養する責任が生まれます。家制度の名残りで、実家は長男が引き継ぐものと認識されているのでしょう。
地方の慣習
伝統的な家族観が残る地域では、長男は幼少期にほかの兄弟よりかわいがられるケースがあるようです。このような地方において、幼い頃から長男は兄弟間で優遇される機会が多く、都会に出ても地元に戻るケースが多々あります。
長男というだけで地元では、仕事においてよいポジションが保証されるため、都会の競争社会に身を置く必要はないのです。
反対に、長男以外の子は、理不尽かつ不公平な優遇のため、大人になってからは地元や実家に寄り付かなくなります。このような地域の慣習で、長男が家を守るものとする傾向があるのでしょう。
思い込み
強制されたわけではないのに、長男だからと思い込んでいるケースもあります。
長男自身が実家を継ぐべきと心の底から考えているのであれば、問題はありません。しかし、仕方なく実家を継がなければ、と苦しい思いをするならば、思い込みの原因を見つけましょう。
幼い頃から両親に言い聞かされていた、実家の近隣は長男が継いでいるなど原因が分かれば、対応もできます。
このような思い込みを捨てると、実家を継がなければならない呪縛から逃れられるでしょう。
家を継がないと決心したときの4つ対処法
実家が遠方、仕事や家庭の事情など、自分の人生を生きるために実家は継がないと決心するケースもあります。
実家を継がないと決めたら、次の対処を取りましょう。
- 親の生前に実家売却
- 兄弟間で役割分担
- 地域包括支援センターの活用
- 高齢者施設の入居検討
生まれ育った実家を捨てることに罪悪感を覚えるケースもあるかもしれません。しかし、それ以上に今の暮らしは大切です。
自分自身の生活を守るための対処法をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
親の生前に実家売却
両親が存命中に実家を売却するため、相続登記や遺産分割協議の手間がかかりません。残された家族の相続手続きが円滑に進む可能性も高い方法です。
また、実家を売却したときに発生した資金を相続財産として将来に残したり、老後施設への入所費用に充てたりも可能です。
親の生前に実家を売却するため、通常の不動産売買とかわりません。反対に、親の他界後に売却する場合は、登記をはじめさまざまな手続きが必要になります。
生前に売却すると、長男が実家を捨てる罪悪感に苛まれることもなくなるでしょう。
成年後見制度の利用
親が認知症などで判断能力が不十分とされた場合、当人が行った不動産売買契約は無効となります。
認知症の親を持つ人が親の生前に実家の売却を検討するなら、成年後見人制度を利用しましょう。
成年後見制度とは、判断能力が不十分な方に対して、援助者が生活や財産を保護・支援する制度です。認知症などで判断能力が不十分となった人の意思や自己決定権を尊重しつつ、成年後見人が契約や財産管理などを代行します。
成年後見人が独断ですべてを決定できるわけではありません。家庭裁判所の許可を受けながら、実家売却などの手続きを、成年後見人が代行します。
兄弟間で役割分担
相続や親の扶養には、兄弟間での優先順位はありません。そのため、親の扶養や相続などに関する手続きは、兄弟の誰でもできます。
両親が存命中であれば、実家の処遇や兄弟それぞれにしてほしい役割の希望を聞き、スムーズに協議を進められるでしょう。すでに両親が故人となっている場合は、遺言書があれば遺言書どおりに、ないならば兄弟姉妹で慎重に話し合うのが重要です。
話し合いによって、親の扶養や金銭的援助、実家の管理など兄弟で役割分担を決めるようにしましょう。
遺産分割トラブル
兄弟姉妹がいるために遺産分割トラブルが発生する可能性があります。
遺産である実家の分割をめぐって、実家を換金する考えと実家を残す考えで対立するのは、代表的なケースでしょう。とくに実家以外に遺産がない場合、兄弟間でどのように分割するか事前の取り決めや話し合いが重要となります。
現代では、昔の家督相続とは異なり長男がすべての遺産を相続するわけではありません。
長男が実家を手放したいと考えている場合は、相続人の間で事前に協議しましょう。
地域包括支援センターを活用
地域包括支援センターとは、介護予防や相談窓口などの仕事を委託した事業所です。地域住民の保健医療向上や福祉増進の支援を目的とした機関で、保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士などの専門職が対応します。
地域包括支援センターでは高齢者に関する相談が可能です。
- 介護保険サービスの利用方法
- 介護予防をする必要がある方の支援
- 高齢者虐待、成年後見制度など権利を守る制度の相談
- 介護に関する相談窓口が分からない方など
なお、竹鼻不動産事務所のある新潟市では、単一又は複数の中学校区を日常生活圏域と定め、圏域ごとにセンターを計30か所に設置しています。
高齢者施設の入居検討
兄弟で親の面倒を見るつもりでも、現実的には親と同居している子や、近隣に住む子が多く負担するでしょう。
不慮の事態が起きた場合も、親の近くにいる子が対応しなければなりません。
兄弟全員が近隣に住んでいるケースでは問題になりにくいですが、兄弟のうち誰かが遠方に住んでいる場合には不公平感がつのります。
親にとって子ども同士の揉め事の原因になるのはつらいものです。親の面倒を見ることで兄弟間に不公平感が蓄積するならば、高齢者施設への入居を検討しましょう。
入居費用は親自身が出すのがベストです。もちろん、子が割合を決めて負担するのもよいでしょう。
問題なのは、金銭的な余裕がない場合です。このようなケースでは、実家の売却で資金を工面するなども検討しましょう。
親族間の扶養義務
親がいつまでも健康でいてくれるとよいですが、高齢になると単独での生活が難しくなり、多くの場合、介護が必要となります。
日本人の平均寿命と健康寿命とを比較すると、周囲の助けが必要な介護期間は、男性で約9年、女性で約12年です。
このように自力で生活できない親の支援は、民法877条によって親族間の扶養義務と定められています。そのため、生まれ順に関係なく、子は親を扶養しなければなりません。
ここでは、子どもが高齢の親に対して負う扶養義務を解説します。
- 親の扶養義務は放棄不可
- 扶養義務を果たさずにいると罪になるケースも
それぞれ詳しく見ていきましょう。
親の扶養義務は放棄不可
法律上、親に対する扶養義務は放棄できません。
親子関係や兄弟関係は法的に有効なため、長男だけが親の扶養義務を負うわけではなく、兄弟姉妹にも親の扶養義務があります。そのため、親の扶養には兄弟姉妹で協力して実施しなければなりません。
扶養義務には2種類あります。
扶養義務 | 内容 | 対象者 |
生活保持義務 | 扶養義務者と同じ水準の生活を被扶養者にも保証する義務 | 配偶者、未成熟の子 |
生活扶助義務 | 扶養義務者の生活に支障のない範囲で被扶養者を扶養する義務 | 親、兄弟姉妹 |
親の扶養義務は生活扶助義務とされます。たとえ長男が親と同居していても、生活に支障のない範囲で兄弟姉妹も対応が必要です。
とはいえ、遠方に住んでいる場合や、仕事や育児で親にまで手が回らないなど、さまざまな言い分で非協力な兄弟姉妹もいるでしょう。
このような状況にならないためにも、事前にそれぞれの役割を決めておきましょう。
金銭的な余裕がなければ扶養義務はない
扶養義務者が自分の生活だけで精一杯の場合には、扶養義務は発生しません。
とはいえ、金銭面での支援ができなくとも、生活の介助や事務処理はできます。兄弟が複数人いる場合は、実際に面倒を見る人と金銭的支援する人など、役割を分担するのもよいでしょう。
扶養義務を負う余力は、扶養義務者と被扶養者の間で考えが異なるケースもあります。扶養義務者同士でも協議がまとまらない場合もあるでしょう。
扶養の程度、方法は当事者間での協議が基本です。当事者間で協議がまとまらない場合には、家庭裁判所がそれぞれの事情を考慮して定めます。
扶養義務を果たさないと罪に問われる
親の扶養は、義務ではあるものの強制ではありません。そのため、義務を果たさず放置しても問題ないと考える方が一定数います。
しかし、正当な理由なく親を扶養しない場合や、扶養せずに親が負傷・病気・死亡した場合などは、罪に問われる可能性があります。
保護責任者遺棄罪 | 保護責任があるにもかかわらず、保護責任を放棄し必要な保護をしなかった場合 |
保護責任者遺棄致傷罪 | 保護責任があるにもかかわらず、保護責任を放棄し保護対象者に傷害を負わせた場合 |
保護責任者遺棄致死罪 | 保護責任があるにもかかわらず、保護責任を遺放棄し保護対象者を死亡させた場合 |
たとえば、認知症の発症により徘徊がある場合や、体力の衰えのため一人で生活するのが厳しい場合は最低限のケアが必要です。
扶養義務を果たさず有罪になれば、3ヶ月以上5年以下の懲役刑になる可能性があります。また、死傷した場合は更に罪が重くなる可能性も。
実家を捨てるとしても、親の面倒は最後まで見るようにしましょう。
まとめ
長男だからと言って必ずしも実家を継ぐ必要はありません。
一昔前の家制度や地域の慣習によって、実家は長男が継ぐものと思い込んでいると、あとになって後悔する可能性があります。もっとも大切なのは今の生活を守ることです。
長男であっても、事前に実家を継ぐ意思がないと意思表示すると、実家を手放しやすくなるでしょう。